日本の精神性の高さを世界に広めた名著「茶の本」(1906)。日本有数の英語の達人、
著者・岡倉天心による、禅が東洋思想に与えた影響についての解説――バイリンガル
で、どうぞ。
“The Book of Tea (1906)” is the masterpiece for spreading the excellence of Japanese
spirituality to the world. In this book, Okakura, the author and one of the Japan’s greatest
masters of English, gives us the commentaries on the influence which Zen had on
Eastern thought――more to come both in English and in Japanese.
Zen was often opposed to the precepts of orthodox Buddhism even as Taoism was
opposed to Confucianism. To the transcendental insight of the Zen, words were but
an incumbrance to thought: the whole sway of Buddhist scriptures only commentaries on
personal speculation. The followers of Zen aimed at direct communion with the inner
nature of things, regarding their outward accessories only as impediments to a clear
perception of Truth.
道家が儒家と反対であったように、禅も正統仏教の認得としばしば反対であった。禅家
の先験的洞察にとって、言葉は思想の妨害物たるにすぎなかった。仏教経典を
隈(くま)なく目をとおしたところで、それは個人の思弁を註釈するにすぎない。禅の
ともがらは事物の内面的性質とじかに交通しようと志した。そうしてそれら事物の
外面的属性を以て、真理の明晰な認得のための邪魔物にすぎないと見なしたので
あった。
It was this love of the Abstract that led the Zen to prefer black and white sketches to the
elaborately colored paintings of the classic Buddhist School. Some of the Zen even
became iconoclastic as a result of their endeavor to recognize the Buddha in themselves
rather than through images and symbolism.
禅の学徒をして、古典的仏画派の精巧に色彩を施された絵よりも、墨絵の略画を
選ばしめるに至ったのは、じつにこの「絶対なるもの」への愛であった。禅家の
なかには、仏像や象徴主義によってよりも、むしろ自分自身のなかに仏陀を識得しよう
と力(つと)めるのあまり、偶像破壊者となったものさえある。
A special contribution of Zen to Eastern thought was its recognition of the mundane as of
equal importance with the spiritual. It held that in the great relation of things there was no
distinction of small and great, an atom possessing equal possibilities with the universe.
東洋思想に対する禅の独特の貢献は、それが精神的なものへと同等の重要さを世俗的な
ものへも認めたことであった。禅の主張するところにしたがえば、事物の大いなる相関
のなかでは、大小の区別のごときは存在しない、一個の原子が宇宙とひとしい可能性を
もっているのだ。
The seeker for perfection must discover in his own life the reflection of the inner light.
The organization of the Zen monastery was very significant of this point of view. To every
member, except the abbot, was assigned some special work in the care-taking of the
monastery, and curiously enough, to the novice were committed the lighter duties, while
to the most respected and advanced monks were given the more irksome and menial
tasks.
完全を探求するものは、彼みずからの生活のなかに内なる光明の反映を見出さなければ
ならぬ。禅院の組織は、この見地からするとき、きわめて意味ふかいものであった。
院主以外のすべての住僧は、僧院の管理についての何か専門の仕事を課せられていた。
しかも、じつに奇妙に聞こえるが、新参者には比較的軽い義務が与えられたに反して、
最も尊敬されている修行の積んだ僧侶には、いっそう厄介で下賤な仕事が課せられたの
であった。
Such services formed a part of the Zen discipline and every least action must be done
absolutely perfectly. Thus many a weighty discussion ensued while weeding the garden,
paring a turnip, or serving tea.
こうした勤めが禅の修行の一部を成していた、そうして、どんなに些々たることも絶対
に完全に果たされねばならなかった。こういうふうにして、幾多の容易ならぬ問答が、
庭先の草をむしったり、かぶらを切ったり、茶を汲んだりする間に、つぎつぎと
行われた。
The whole ideal Teaism is a result of this Zen conception of greatness in the smallest
incidents of life. Taoism furnished the basis for aesthetic ideals, Zennism made them
practical.
茶道のあらゆる理想は、人生の最も些々たるできごとのなかにも偉大なものを認得する
禅のこうした考え方の一つの結果である。道家は美の理想のためにその根底を与え、禅
はそれを実践に移したのであった。
- 作者: 岡倉天心,千宗室,浅野晃
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